AI業界、ぜんぶでいくら? 871の事業に値札を付けてみた
チップ、モデルのラボ、AIコーディング、法務AI……。LLMとそのまわりのAI事業871件に推定の値札を付けて合計すると、約15.2兆ドル。その半分は計算基盤でした。ピラミッド、ランキング、売上倍率、数え方で合計が倍近く変わる話まで、クイズとスライダーで触りながら見ていきます。
文・ニコ

LLMと、そのまわりのAI事業 871件 の推定時価総額を合計した数字
チップを作る会社、モデルを作るラボ、AIでコードを書くツール、法律事務所向けのAI……。「LLM事業」と一口に言っても、中身はバラバラです。
そこで、ぜんぶ並べて値札を付けてみました。上場企業は時価総額、非上場は直近の評価額。大企業の中のAI事業は「切り出したらいくらか」を推定しています。
単位はぜんぶ米ドル。$1B=10億ドル、$1T=1兆ドル($1,000B)です。グラフはタップするか、カーソルを合わせると詳細が出ます。
当たり! 惜しい! 正解はNVIDIA。LLM向けの分だけで推定 $3,500B。2位のAnthropic($1,500B)の2倍以上です。
ゴールドラッシュで一番もうかったのはツルハシ屋、という話を聞いたことがあるかも。AIでも、いまいちばん値段が付いているのは「掘る道具」を作る側です。
ものさしを替えてみる
兆ドルと言われても、ピンと来ませんよね。この表の中の数字どうしで比べてみます。
NVIDIAのLLM向けの分だけで、Tesla全体の2倍以上
Teslaは合計に入れていない参考値です。
AnthropicとOpenAIの2社で、アプリ層5分類ぜんぶの2倍以上
Claude Codeひとつで、AIコーディング28件の合計くらい
Claude Codeは$50〜150Bの参考値。Anthropicの中に含まれるので、合計には足していません。
Cursor 1社で、導入支援(SI)43件の合計を超える
AI経済は、土台がいちばん重いピラミッド
871件を9つの分類に分けて、下から積み上げてみました。土台の計算基盤(チップ・メモリ・GPUクラウドなど)だけで全体の約半分。上の階に行くほど、どんどん細くなります。
いちばん上のアプリ層(5分類)は、ぜんぶ足しても約$1.25T。土台の6分の1くらいです。数は多いけど、1社あたりはまだ小さい。ここが伸びしろでもあります。
値段ランキング トップ10
バーが推定値、うすい線が「このくらいかも」の幅です。
11〜50位も見る閉じる
11〜50位
目盛りを拡大しています(最大$400B)。上のトップ10とは縮尺が違います。
トップ10のうち6つが計算基盤。そして上位50のうち12件が中国の事業です(DeepSeek、Moonshot AI、Alibabaなど)。
2強ラボの値札、ほんとはいくら?
AnthropicとOpenAIは、実際に株が売り買いされた価格(成立価格)より高く見積もっています。売上の伸びと、IPOの見込みを織り込んだからです。
Anthropic
7〜9月の売上は年換算で約$67B。推定値はその約22倍。幅は$965B〜$2,000B。
OpenAI
年換算の売上推計は約$50B。推定値はその24倍。幅は$852B〜$1,280B。
2社を成立価格に戻すと、全体の合計は約$0.9T下がります。それくらい、この2社の見積もりは合計を動かします。08章で、実際にスイッチを押して確かめられます。
売上の何倍で値段が付いてる?
会社の値段は「売上の何倍か」で考えることが多いです。倍率が高いほど、市場が将来の伸びに賭けているということ。まずは予想から。
当たり! 惜しい! 正解は79倍。推計ARR(1年あたりの継続収益)約$0.2Bに対して、値段は$15.8Bです。
「売上の24倍」は、いまの売上のまま24年分の値段、と読み替えるとつかみやすくなります。
そんなに待つ人はいません。値段には「売上はこれから何倍にもなる」という期待が入っている、ということです。同じ「AI」でも、期待のかかり方がまるで違います。
分母(売上)の時点や種類は会社ごとにバラバラです。業界全体の相場ではなく、確かめられた代表例として見てください。
予想が割れる選手権
大企業の中の「AI事業だけの値段」は、会社が数字を出していないので推定の幅がとても広くなります。
Metaは$30B〜$400Bで、13倍以上の開き。Appleは$0から始まります。「AIでまだ稼げていないかもしれない」というシナリオも、ちゃんと残しているからです。
上の階の主役たち
ピラミッドの上のほう、データ・LLMOpsの階と、アプリ層の5分類です。数は多いけど、ここが一番ユーザーに近いところ。各分類のトップ3を並べました。
データ・LLMOps
- Databricks$215B
- VAST Data$30B
- Scale AI$25B
マルチモーダル・ロボット
- Unitree$42.6B
- Prometheus$41B
- Figure AI$39B
業界・業務特化
- Salesforce Agentforce$21.6B
- Sierra(顧客対応)$15.8B
- Harvey(法務)$15.5B
消費者向け・検索
- Canva$42B
- Perplexity$28B
- Figma$13.1B
AIコーディング
- Cursor$60B
- Cognition(Devin)$48B
- Lovable$13.3B
導入支援(SI)
- Accenture$6.2B
- TCS$4.3B
- NTT$3.1B
Canva・Figma・Databricksなどは、AI以前からの事業も含めた会社全体の値段です。AI部分だけなら、もっと小さくなります(たとえばCanvaは試算で約$8.4B)。
日本はどこにいる?
本表には、日本の事業が52件あります。合計はいくらだと思いますか?
中身を見ると、目立つのはAIそのものよりAIを支える部品の会社です。
部品・インフラ
- キオクシア(SSD)$28.8B
- フジクラ(光配線)$11.1B
- 村田製作所(電源部品)$5.9B
- さくらインターネット$0.78B
モデル・サービス
- NTT(tsuzumi・生成AI事業)$3.1B
- Sakana AI$2.7B
- LayerX$1.3B
- Preferred Networks$1B
どこまでを「LLM事業」と数える?
実はこれで合計が倍近く変わります。スイッチを切り替えて、合計がどう動くか見てみてください。
ニュースで「AI市場は○兆ドル」と見かけたら、どこまで含めた数字かを見てみてください。それだけで、話がかみ合うようになります。
この数字、どこまで信じていい?
正直に言うと、これは値札の一覧ではなく、比べるための推定です。確かめるために、別の調査役がランダムに40件を選び、ゼロから推定し直す「抜き取り監査」を3回やりました。
- 小さい会社の値段はだいたい合う。でもNVIDIAやAnthropicのような巨大な行ほど、仮定ひとつで大きく動きます。05章のAlphabetで体験したとおりです。
- 「AI事業の比率」を会社が公表していない行は、調査側の仮定です。点の数字より、幅を見てください。
- 大事な留保がある行は193件(約22%)。ただ金額にすると全体の約4%です。
- Alphabet・Microsoft・Amazonなどの7〜9月期決算(10月28〜30日発表)は、まだ入っていません。
吸収された会社、消えた会社
値札を付けている間にも、会社は買われたり、消えたりします。並べてみると、AIならではの買い方が見えてきます。
会社ごと買う
人と技術だけ持っていく
退場
2026年10月にChapter 11(米国の破産手続き)を申請。Disneyが一部資産に$20Mで最初の入札をしています。決着は11月末〜12月初めの見込み。
差し戻し
こういう動きがあると、数えるのが大変です。この表では、人と技術だけ持っていかれたGroqやPoolsideは、残った本体をいまの値段で載せています。買収が終わっていないHugging FaceやWorld Labsは独立の行に置き、買い手の行には同じ金額を足していません。同じお金を2回数えないためです。
あの会社はいくら?
871件ぜんぶ、ここから探せます。
「切り出し」は大企業のAI事業だけを推定した値、「全社値」は会社全体の値段です。※は、価格の時点や仮定に大事な留保がある行です。
舞台裏:AIエージェントで、これをどう作ったか
この871件は、aachatの中で働くAIエージェントたちが、2026年10月26日の1日で調べたものです。人間がしたのは、依頼と、途中の方向づけ(「もっと徹底的に」「現実的な上限まで一気に」)だけです。
10の担当に分けて、並列で調べる
西側のラボ、ビッグテック、中国・アジア、計算基盤、コーディング、日本……と10に分けて同時に調査。重複を1行にまとめて、最初の版は409件。
ほぼ1時間ごとのラウンドで磨く(14回)
毎ラウンド、まとめ役のエージェントが「次に何を調べるか」を決めて、調査役を最大3つ起動。ラウンド1〜14で、調査役は延べ40回動きました。
外の一覧と1社ずつ突き合わせる
ユニコーン企業の全件リスト3本(約5,000行)と、上場AI銘柄のリスト12本(499社)。漏れを機械的につぶしました。
別のエージェントに、抜き取りでやり直させる
無作為に選んだ40件を、作った本人とは別の調査役がゼロから推定し直す。これを3回。09章の81%と19%は、ここから出た数字です。
ラウンドごとの件数と合計
点にふれると、その時点の合計が出ます。ラウンド6の後は件数の記録がないので飛ばしています。
件数は2倍以上になったのに、合計は$14.3Tから$15.2Tへ、6%くらいしか増えていません。足した462件のほとんどは小さな会社で、合計を決めているのは上位のひと握りだからです。だから途中からは、件数を増やすより大きな行の仮定を見直すほうに力を入れました。
大きな調査をエージェントに頼むときのコツ
今回うまくいったやり方です。あなたが何かを網羅的に調べたいときにも、そのまま使えます。
- 分担して、並列にする。1人に全部やらせるより、領域を分けたほうが深く掘れます。
- 正本を書き換えるのは1人だけ。調査役は「この行をこう変えたい」という提案だけを出し、まとめ役が反映する。同時に書き換えて壊れる事故を防げます。
- ラウンドごとに優先順位を決める。今回は「合計を大きく動かす不確かさ → 網羅の穴 → 未確認の行」の順でした。
- 作った本人に採点させない。別のエージェントが無作為抽出でやり直すと、どこが弱いかが数字で分かります。
- 終わる条件を先に決める。今回は「新しい漏れが1ラウンド5件未満」「留保付きの行が1割未満」でした。正直に言うと、2つめは届かず(22%)。追加の調査ではもう動きにくい、と判断したところで止めています。
最初の一歩は、こんな頼み方からで十分です。
○○の分野で事業をしている会社を、できるだけ漏れなく一覧にして。 ・まず領域を5つくらいに分けて、それぞれ別に調べて ・1行ごとに、数字・日付・出典URLを付けて ・推測した値は「推測」と書いて、確かめた値と分けて ・最後に、別の視点で10件だけ選び直して検算して
3行でいうと
- LLMと周辺AIの事業は、推定で約$15.2T。その半分は、チップやメモリなどの計算基盤。
- モデルを作るラボでは、Anthropic($1.5T)とOpenAI($1.2T)が飛び抜けている。
- アプリ層は数が多いけど1社あたりはまだ小さく、倍率は高い。つまり、期待が先に走っている。
出典:aachatの調査「LLM事業の地図と推定時価総額(2026-10-26時点)」。871件を10の担当で調べ、ラウンドごとに裏取りを重ねたもの。金額は公開資料と仮定から作った推定で、投資判断の材料ではありません。